家族信託
2025/01/23
家族信託は少し特殊な制度になります。
制度自体を簡単に説明すると「両親の認知症対策に有用な制度」、ということになります。
2006年に信託法が改正され家族信託という制度が設けられ、2007年より運用が開始されました。
施行から既に15年以上経過しているわけですが、まだその利用状況は十分とは言えません。
特に類似している遺言と比較した場合、家族信託の利用件数は少ないと言わざるを得ません。
しかし、家族信託には家族信託にしかない大きなメリットがあり、正しく理解することで、両親の認知症対策等に大きな効果を発揮します。
ここでは家族信託とは何なのかを詳しく説明していきます。
家族信託とは
端的に言えば、所有権を財産権と管理処分権にわけて、管理処分権を子ども等に譲渡する契約です。
例えば父名義の賃貸不動産があるとして、その名義を子に信託して移しますが、毎月入ってくる賃料は父のものとする、というような活用方法が考えられます。
認知症対策に有効、という意味では任意後見制度によく似ていますが、任意後見制度より自由度が高いです。
色々条件を付けて、管理を家族に任せる仕組み、といったんは理解してください。
家族信託における登場人物
- 委託者
→財産の所有者です。この人が自分の財産を受託者に対して信託します。 - 受託者
→信託財産の名義を持つ人。信託財産の管理と処分を行います。 - 受益者
→信託財産の財産権を持つ人です。信託財産より発生する利益を受けます。通常、委託者と受益者は同じ人になります。
家族信託の6つのメリット
委託者が認知症になっても大丈夫
1
そもそも家族信託は、両親の認知症対策として作られた制度でもあります。
親が認知症になってしまうと、預金をおろしたり、不動産を売却することができなくなります。
成年後見人を立てれば解決される事項ではありますが、現在の成年後見制度では、よほど少額の財産でない限り、裁判所は司法書士や弁護士等の専門家を選任しますので、それらの専門家に毎月支払う報酬がかかってしまいます。
信託で子に名義を変える=管理権と処分権を親から子に移行させる、ということですので、その後に親が認知症になっても子は問題なく不動産の管理、処分が可能です。
家族で収益不動産を共有する場合のリスクを排除
2
収益不動産が親と子の共有である場合、親が認知症になってしまうと不動産全体として処分ができなくなります。
売ることができないのは当然として、新しく賃貸借契約をすることもそのままではできません。
そこで親の共有持分を子に信託しておくことで、不動産全体として処分できない、といったような状況に陥るリスクを排除することができます。
法定後見制度より圧倒的に使い勝手が良い
3
成年後見制度は「本人の財産を守る」ということを最重要と考えます。
投資的な要素を含む行為はできなくなると考えてください。
親子で商売をやっている場合、親に成年後見人がついてしまうと、新たな設備投資にお金を使ったりすることはできない、もしくはやりづらくなってしまいます。
一方、家族信託では、管理権と処分権が子にあるわけですから、子は大きな裁量をもって信託財産の運用を行うことができます。
任意後見制度より柔軟な対応が可能
4
家族信託も任意後見制度も、本人の判断能力がしっかりしているうちに行う、いわゆる認知症対策に分類される制度です。
任意後見制度の場合、監督人の選任という形で、どうしても裁判所が介入するため、小回りが利かない部分があります。
家族信託は裁判所の介入が一切ありませんので、ご家族の仲が良好であれば、明確に任意後見制度より優れていると言えます。
遺言類似の効果を持たせて、遺族の負担を軽減
5
信託契約では、委託者が死亡した場合の信託財産の行方を定めることができます。
つまり、信託契約に遺言類似の機能を持たせることができるというわけです。
例えば、この事業用のビルだけは管理している長男にそのまま渡したい、というような場合。
委託者が死亡すれば次の受益者は長男にすると指定しておけば、目的を達成することができます。
遺言書を書く決心はまだつかないものの、この特定の財産だけは誰かに渡したいと決まっているような場合に効果的です。
倒産隔離機能がある
6
財産権は委託者にあります(委託者が受益者を兼ねるため)。
このため、受託者が破産しても債権者は受託者の保有する信託財産には手出しができません。
家族信託と後見制度の比較
ここでは、家族信託と後見制度を比較します。
家族信託と任意後見制度は、本人が元気なうちから行う認知症対策です。
法定後見制度は本人の判断能力が喪失している場合に、契約等の法律行為を行うことができるように対処する制度です。
似ていますが、趣旨が異なっています。
家族信託 | 成年後見制度 【法定後見】 | 成年後見制度 【任意後見】 | |
---|---|---|---|
内容 | 本人の家族を「受託者」に 指名し、財産の管理・運用・ 処分を任せる | 本人の判断能力が無くなった あとに行う手続き。 本人の代理人として行動する 者を裁判所が選任する | 本人の判断能力低下に備え、 あらかじめ任意後見人を 指定しておく。 任意後見人は本人の 代理人として行動する |
財産管理者 | 「受託者」が財産を管理する。
この受託者は本人があらかじめ 自由に選ぶことができる | 裁判所が選任する「法定後見人」 が管理する。 財産が500万円以上あるなら 基本的に司法書士等の 専門職が選ばれる | 「任意後見人」が財産を 管理する。 任意後見人は本人が 自由に選ぶことができる |
いつ対策を行うか? | 本人が判断能力を喪失して いなければいつでもOK | 本人が判断能力喪失と 認定されてから行う | 本人が判断能力を喪失して いなければいつでもOK |
効力発生時期 | 信託契約を締結すれば 即時に効力発生 | 本人の判断能力喪失後、 申し立てを行い、裁判所が 法定後見人を選任したとき | 本人の判断能力喪失後、 申し立てを行い、裁判所が 任意後見監督人を選任したとき |
監督機関 | 監督機関は存在しない。
このため、親族仲が不仲の 場合、利用が難しい | 司法書士が後見人になる 場合は、公益社団法人 成年後見センター・リーガル サポートと家庭裁判所が 監督を行う | 家庭裁判所が選任する 任意後見監督人と家庭 裁判所が監督を行う |
不動産の管理や 処分について | あらかじめ定めた信託契約の 内容次第だが、自由に処分 できると定める場合が多い | 家庭裁判所の許可が必要 | 任意後見人が自由に管理、 処分することができる |
費用 | 信託契約書作成15万円~ 信託登記費用15万円~ | 申立費用 10万円~ | 任意後見契約書作成費用と 申立費用 15万円~ |
毎月定期的に 発生する費用 | 発生しません | 専門家報酬 月2万円~3万円 | 専門家が任意後見人になる 場合は 月3万円~ 親族が任意後見人になる 場合は報酬なしと することができる |
必要な書類
- ご実印(委託者および受託者)
- 印鑑証明書(委託者および受託者)
- マイナンバーカード等の身分証明書(委託者および受託者)
費用のご案内
家族信託契約書作成 | 報酬15万円〜 |
---|---|
信託登記 | 報酬15万円〜 |
ご依頼の流れ
公証役場と打ち合わせ
STEP4
出来上がった信託契約書案をもって、公証役場で打ち合わせをいたします。
何度かの打ち合わせを経て契約書案を完成させます。
なお、信託契約は必ず公正証書で作成するわけではありません。
公正証書での作成が推奨されますが、場合によっては自筆で行っても全く支障のない場合がございます。
余分な出費を抑えることにより、なるべく多くの依頼者様に利用して頂こうと考えております。
信託契約書の署名捺印
STEP6
問題がなければ、信託契約書に署名捺印をしていただき、お手続き完了となります。
公証人押印済みの信託契約書は依頼者様に保管をして頂くこととなります。
今後、その契約書を利用して様々なお手続きを行っていきます。
よくある質問
- 信託の手続きにかかる期間を教えてほしい
- 1か月〜1か月半程度です。
依頼者様との打ち合わせで信託内容を練り上げ(2〜3週間)、登記手続き(2週間)、という流れになります。
金融機関が絡む場合はさらに2〜3週間ほど期間がかかります。
- 信託によって不動産や預金の名義を子に移してしまうと税金がかかりませんか?
- 信託は分かりやすく言えば、財産を管理権と財産権に分けて、その財産権は自分に残したまま管理権をお子様に移す行為になります。
不動産や預金の名義を取得するお子様は、あくまで管理をするだけであり、財産権は本人に残ったまま移転はしませんので、贈与税等の税金がかかることはありませんのでご安心下さい。
- 認知症になってからでも家族信託はできますか?
- 認知症の進行具合にもよりますが、基本的には難しいとお考え下さい。
信託は少し複雑な制度になりますので、ご本人がその内容をある程度しっかりと理解できなければなりません。
家族信託はよく認知症対策と言われますので、認知症になる前に、ご自身の判断能力に問題がない状態であるときに、将来の認知症対策として行うものとなります。
ただ、認知症にも症状が比較的軽いものもございますので、ご不明な場合は遠慮なくお電話等にてご相談下さい。
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